大胆な言葉
長い長い休みが明け、
また今日から学校への往復が始まる。
生ぬるい暑さの中、真由は杏奈と並んで歩いている。
その歩みはいつも以上に遅く足取りは重い。
「あーあ。あっという間に終わっちゃったよー。」
深い溜息を付きながら杏奈が言う。
「本当だね。なんで夏休みって早いんだろうね。」
頷きながら真由は杏奈に同意する。
「もっともーっと遊びたーい!」
周囲の人が一斉に振り返る程の声で杏奈が叫ぶ。
「ちょ、ちょっと杏奈。恥ずかしいよ……」
真由の方が恥ずかしさで顔を真っ赤にさせていると、
杏奈は手を合わせて真由に軽くウインクした。
「それにしても良かったね、誤解が解けて。」
杏奈が真由の頭をぽんと叩きながら言った。
夏休み前はこのまま解けないと思っていた圭輔の誤解。
それを圭輔の妹である詩織のお陰で解くことが出来た。
詩織には感謝してもしきれない程だ。
「うん、本当良かった。」
詩織を思いながら真由は言った。
「そういえばさ。」
杏奈が目を輝かせながら真由を見つめる。
「なに、杏奈。いいことでもあったの。」
真由が不思議そうに杏奈を見つめ返す。
真由の言葉に杏奈は激しく首を振りながら言葉を続ける。
「“あった”じゃなくて“ある”の。
今月、修学旅行があるじゃん。」
真由は杏奈の言葉にいまいちピンとこない。
「修学旅行……?」
杏奈の言う通り、
毎年9月に入ると3年生は修学旅行へ行くことになっている。
今年も例年通り行われる。
「それがどうしたの。」
ぼんやりしながら真由が尋ねると、
杏奈が真由の両頬を叩く仕草をしながらはっきりと言った。
「真由!香坂君と二人きりになれるチャンスよ!」
杏奈の大胆な言葉に真由の鼓動が一気に早まる。
「二人きりって……」
真由の顔がみるみるうちに赤く染まる。
その姿を見ながら杏奈が真由の背中を押すように、
「絶好のチャンスなんだからね。」
と言った。